わだかまり

 全国大会、真田と手塚のシングルス戦が始まり、ベンチの後ろから見ている赤也。
「柳先輩、副部長が手塚さんとずっと試合してないからって"わだかまり"って言ってんの、なんかおかしくないっスか」
「別におかしくはないぞ」
「えー。俺"わだかまり"の意味間違えて覚えてんのかな」
「言ってみろ」
「ひっかかりっつーか。心残りっつーか。副部長にとってそんな相手なんスか? 手塚さんって」
「なるほど意味はあっているな。ただ、あの二人はテニスだけの関係ではないからな。それを知らない赤也が疑問に思うのは当然だ」
「へぇー。あの二人にどんな関係があるんスか?」
 そこへ、腕と足をそれぞれ組んでベンチに座っていた部長幸村が口を挟んだ。
「ちょっと蓮二?」
「ああ、精市聞いていたのか。ならお前の口から赤也に説明してやればいい」
「いや普通に聞こえてるし。ていうか真田の奴め、あっちこっちで昔の話をベラベラと話してるのか……」
「えーなんなんスかー。部長も絡んでんなら絶対ききてえ!」
「ほら、赤也にも教えてやれ。仲間外れにすると試合前だというのに不貞腐れるぞ」
「仕方ないなぁ、教えてやるよ。俺の初恋の相手が手塚なんだよ。まだ小学校にあがったばかりの頃に真田の家で会ったんだけどさ。おじいさんに連れられて東京から来た都会の子って感じで憧れてね~。子供には眼鏡ってすごい大人アイテムに見えるじゃないか。一時、週末になると『手塚くんは来ないのか』って真田に聞いててね。昔から俺の事が好きな真田はそれをずっと引きずっているんだよ。結局、子供同士じゃ家が遠くて好きに会えないし、手塚はあの通り昔からお固いからね。真田が妬くような事は何もないし、真田もそれを知っているんだけどさ。真田としては自分が俺の初恋の相手じゃないという事実が許せないんだよ。何か目に見える形で手塚には負けてないんだ、って記憶の上塗りをしたいっていうわだかまりがずっとあるんだろうな。そういう意味での勝負はもうついているっていうのにさ。ったく、なんでも勝ち負けに置き換えないと満足しないなんて、いくつになっても成長するのは見た目だけで中身は子供のまんまなんだよなー」
「はぁ、そッスか」




(G346より/2007.6.7/2021.10.24)
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