パール

★幸村とブン太が人でなし系です。徳幸←ブン←モブ女
(登場人物全員悪い、みたいなのを書こうとした)
 バレンタインとホワイトデーに挟まれている幸村の誕生日は毎年、どちらのイベントもかすむほどのプレゼントの山ができていた。
 今年は特に大学生として最後の誕生日で、プロになってしまえば確実に世界の大舞台に立つのだから、直接渡せる最後の誕生日とあって去年以上に集まった気がする。
「蓮二悪いね」
「それじゃ、仕分けしていくか」
 沢山あるから開けるだけでも大変、と柳が幸村の自宅に呼ばれていた。
 仕分けは決してお返しの手配のためではない。お返しは幸村が誕生日を祝いたいと思う相手にしかしない。お返しがなくてがっかりしてもうプレゼントなんか渡さない、と思われるならその方がいい。
 柳がしているのは、売れるもの売れないもの、の仕分けだった。
 口に入れるものは、未開封であっても何があるかわらかないから処分する。
 食べ物以外でも、手作り系は処分する。
 売るのも処分も柳の役目だ。もちろんただではない。売り上げから手数料が柳の懐に入るが、欲しい物があったらそのまま持ってて、とも言われている。
「にしても精市は一つもいらないのか?」
「うん、名前も知らない人からもらったもの使うくらいなら同じものを自分で買う」
「俺はお前の友達で良かったよ」
「蓮二のお薦めの本は毎年の楽しみだから。こちらこそありがとう」
 幸村の「好きな人」のキャパシティはものすごく少ない。「好き」以外は「嫌い」ではない。「嫌い」の方がまだ意識しているだけマシかもしれない。興味がないんだから嫌いですらない。柳は自分がその少ない枠をキープできていることを誇りに思う。
「今回、今まで以上に数が多いから買い取り店に持っていくか」
「なんでもいいよ。別に換金しなくったって俺はいいくらいだから。蓮二の好きにして」
 昨今ではトレンドから定番にもなっている某ハイブランドのパールのネックレス。今年、幸村が本当に欲しいと思い、恋人にねだったのがこれだった。
 その同じショッパーが複数あるのはそもそも柳の入れ知恵だった。
 とにかく毎年山のようにプレゼントをもらう。予算に糸目をつけず幸村を振り向かせたい者たちはストレートに「何が欲しい?」と聞いてくる。でも欲のない幸村に柳が「同じものを答えておけ」とアドバイスした。
「ひとつだけ残してあとは換金して、全員に愛用してくれてるって思わせればいい」
 そもそも幸村は付き合う気もない相手に媚びたり気づかったりする必要を感じていなかったが、柳が処理してくれるのならと、言われた通りに対応するようにしていた。

 数日後──。
「幸村くん!」
 大学のカフェにいると丸井が嬉しそうにやってきた。
「それのパールの、俺がプレゼントしたやつじゃん!」
「え? あ、ああ、このネックレス……」
「すっげー似合ってる! やっぱ幸村くんは欲しいもののセンスもいいし、ハイファッションが似合うよなぁ」
「そうかい。ありがとう。あ、徳川さんが来たからいくね」
 幸村はスマホを手に立ち上がった。
「あ……うん、またな!」
 ──幸村くん、ちゃんとネックレスしてくれた……。俺があげたやつ。
 丸井は、学生の波にのまれいく幸村の背中を追う。だがそれを阻止される。
「ブン太くん!!」
「あ?」
 ──ちっ、面倒で無視してたっつーのに。
「ずっとメッセージ送ってたのに~。もうランチ食べちゃった?」
「食ってねーけど……一緒に食うなら奢りだぜ」
「もち、奢るし、またお金必要だったら言って。いくらでも!」
「おめー、なんでそんな金あんの? 家金持ちなの?」
 かなりお直しにお金をかけているのだろう、顔もスタイルも悪くない。インスタのフォロワーもそれなりにいるのが自慢らしく、むしろ可愛い。だけど幸村じゃない。
「ふつーだよ。でもパパ活してるから!」
「ふうん」
 ──幸村くんもパパ活しねーかな。俺がパパになって幸村くんに金払うから。こいつの金だけど。


「徳川さん、お待たせ」
 大学の門の前で、徳川は幸村のバッグを受け取ると代わりに、バイクのヘルメットを渡す。
「っと……、おいで」
 当たり前のようにメットを被ろうとした幸村を止めて、肩を引き寄せる。襟元のパールのネックレスに伸びた髪が数本絡まっていた。幸村よりも大きな手が優しくそれを解くと当たり前のようにさらりと頬に触れた。
「ありがと」
「君によく似合ってる。してくれてうれしいよ」
「当たり前でしょう。俺がおねだりしたんだから。それに徳川さんが買ってくれたってだけで何だって嬉しいし、ずっと一緒にいるみたいで……」
 今度は幸村の指がパールに絡まった。
 ──確かに皆に同じ物を言ったけど、俺が欲しかったのは徳川さんからだけだから。
「こら、そんな可愛いことを言って。今すぐキスしたくなってしまうからもう後ろに乗って」
「していいのに」
「ああ、二人きりになったら嫌というほどするから」




(2023.3.23)
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