学園祭の王子様より

「なんだ、幸村見てたのか」
「ああ、見ちゃいけなかった?」
「いや、興味ないかと思っていた」
「そう? お前が出るのに興味ないわけ、ないだろ? 着物、よく似合ってる」

 真田は学園祭の劇「本能寺の変」で信長役に抜擢されていた。今、本番前の通しリハーサルが終わって、客席に座る幸村を見つけてそのまま舞台を下りていた。
 幸村は答えながら真田に近寄ると、白い着物の襟をすーっと撫でた。その仕草はもとより、誉められたことに真田は素直に気分を上げる。真田の見た目にはその内心の変化はわかりにくいが、幸村には手に取るようにわかる。
 二人が必要以上に距離を縮めて立ち話している姿は、片付けを始めている他の生徒達の目につい入っていた。

「俺もお前と一緒にお芝居したかったな」
 幸村の目線の先には、蘭丸役の山吹の壇が捉えられていた。真田は、何処を見ているのかと自分を見ていない幸村の視線を追う癖がある。
「蘭丸に手を出していないだろうね」
 今度はぐっと襟元を掴んで真田の視線を自分に戻す仕草をするが、幸村がそんな事をしなくてもその発言で真田は幸村に視線を戻さずにはいられない。
 幸村が嫉妬心を表に出すのは意外と珍しい。それもこんな外野の視線が多い、目立つ場所で。
 まるでここにいる生徒全員に改めて釘を刺しているようでもあった。これは俺のものだよ、と。

「俺は色気のないのは趣味ではないと知っているだろう」
 そう言いながらも、悪い気がしないから真田の口調は穏やかだ。
「フフ、随分な言い方だな」
 幸村もその真田の言い様がお気に召したらしく、作り笑いを本当の笑みに変えた。
「でも、あっちから来たら? こんな格好でいたら据え膳食わぬはなんとやらって気分にならないか?」
「ならん。俺は飢えていないし、食べたいものは自分で選ぶ」
 誰を選ぶとわざわざ言わずともその相手は幸村に決まっている。
「俺もお前を食べたいよ。この衣装のままでね、なあ終わったら持って帰ってこいよ」

実行委員会の生徒達は、すっかり出来上がっている二人だけの世界に、話しかけられず困っていた――。


(2006.1.19/2021.10.3/学園祭の王子様より)
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