彼ジャージ

──へえ、こんな時間までやってるんだ。
 越前リョーマが珍しく遅い時間に外に出てみるとコートの隅で片付けをしている徳川カズヤを見つけた。
「もう終わるんすか?」
「ああ、越前君か。そうだ……」
 徳川の荷物に白い代表ジャージのジャケットが見えた。
 今の徳川はもう選抜の赤ジャージを着ているし、そもそもジャケットも着ている。
「それ……」
「ああ、忘れもの、だよ」
 ジャージの忘れ物と聞いてリョーマの頭の中に一人の男の顔が思い浮かんだ。
 いつも肩にかけているからいつどこかに落としたり、忘れたりしてもおかしくはなかった。
 しっかりしているようでコートの外に出れば、二つも年上なのにどこか放っておけない危うさを感じて目が離せない。
「あの、持ち主に思い当たるかもしれないんでそれ、俺が引き受けるっす」
 だが徳川は意外な反応を見せた。
「いや、いいんだ。俺が渡すから」
 その態度は忘れ物を見つけたという先程の台詞とは違和感があった。
 リョーマは直感で気付いた。
 徳川もそれが誰のものかを知っているんじゃないか、と。
 いやもしかしたらそもそも何かトボけているのかもしれない。
「徳川さん、ちょっと相手してくださいよ」
「すまない、今日はもう上がるんだ」
 思った通りの回答だった。
 多分断られるだろうとわかっていた。

 翌朝──。
 食堂で会った幸村はいつもの通り白いジャージを羽織っていた。
 幸村は二種類の炊き込みご飯の前でどっちにしようか悩んでいる。
「っす」
「おはよう。やっぱり銀杏かな~」
「あんたジャージなくしてなかったっすか?」
「ん? 俺が? ジャージならここにあるけど」
 幸村が羽織っていたジャージをほら、とわざわざ背中を向けて見せる。
 そんな仕草はやっぱり二歳年上で、神の子と呼ばれるテニス王者とは思えない。ただ可愛い、としか思えなかった。
 それに真剣に炊き込みご飯で迷っているのも。
 そして、そのジャージが明らかに普段の幸村のジャージより一回り大きいのがわかった。
──ふうん、そういうことか。にゃろう。
 越前はとりあえず幸村の隣で、一緒に炊き込みご飯を迷うことにした。


(テニラビログボより)
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