幸村サンタ

 突然、幸村部長からのご指名がきた。部活終わりに思いついたように声を掛けられ何かと思えば、わざわざ休みの日を使ってクリスマスの準備につきあえと。それも皆には内緒で、ってそれってもうデートじゃん。なんかすでに俺の中ではサンタからのプレゼントが来た! って感じなんだけど。

 んで部長と待ち合わせてドンキホーテまで来た。
「それマジで着るんスか?」
 部長が手にしているのは女物のサンタのコスチュームで。
「当たり前だろ。クリスマスなんだから。そうだ、赤也お前も何か着ろよ」
 その目線の先にあるのはトナカイのコスプレ。いくら部長命令とはいえ、ピタピタタイツは勘弁して欲しいッス。
「お、俺もサンタがいいな~」
「……そうだな。俺一人で相手をしなくてもいいか。それもありだな」
 相手? の意味がよくわかんなかったけど、案外あっさりとトナカイは防げたから気にしなかった。

 買い物が終わると、荷物持ちのお礼としてハンバーガーを奢ってもらった。デート気分の俺は、むしろ俺が全部出す、それが嫌なら割り勘だってゴネたけど、言い出したらきかない部長は受け取ってくれなかった。それでも二人きりのクリスマス作戦会議は、部長の休日を独り占めしている事と部活以外で感じる部長との連帯感に大満足だった。

 クリスマス当日、部活が終わる頃に示し合わせたとおり、俺達は誰にも気づかれないように部室に戻り、サンタの衣装に着替えた。俺はもちろん男物だけど。
 それから慌てて皆が戻ってくる前に、部室にちょっとした飾りつけと買ってきたケーキ、飲み物をセッティングして。そのままこっそり部室の外に出て隠れて待った。

「メリークリスマス!」
 レギュラーの先輩達が部室に戻り切った頃合を見計らって、声を張り上げて子供みたいにはしゃぎながら部室に入った。そういえば配るプレゼントを用意していないって事にその時、今更ながら気がついた。

 何も聞いていなかったせいか顔をしかめていた真田副部長も、足を露にしたミニスカサンタ姿の部長を見れば、にやけが隠し切れていない。柳さんは嬉しそうな部長を、嬉しそうに更に目を細めて見てる。

 部長は「さあ、プレゼントをやるよ」といいながら、唖然と立っている副部長に抱きついて頬にキスをした。その次は同じ事を柳さんに。
「おっ、いいねーゆっきーサンタ。次は俺だろい!」
「良い子にしかやらないよ?」
 そう、部長のキスはそんなに安売りしていいものじゃない。なのに次々と皆にしてる。
 呆然と見てると、部長と目が会った。
「ほら、赤也もサンタなんだから手伝えよ」
 
 ――なーんだ。俺もプレゼント貰う側がよかったじゃん。




(2005.12.23/2021.12.25)
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