Hide and Sheep

 焼肉ワールドカップ後――。
 ドイツのダンクマールが巨大化し、襲われたヘリからパラシュートで脱出していた跡部が1001号室に帰ると幸村の姿はなかった。
 焼肉くせぇだろうからシャワーでも浴びてんのか。
 ちょうどいい、と一緒に浴びようと跡部がバスルームのドアを開けようとした、その時。
「ダメ! 入ってくるな」
 跡部の気配を察知した幸村が内側からドアを押さえて開けさせなかった。
「あーん? 何を今更言ってんだよ」
 つきあっている二人にとって一緒にバスルームを使うのは当たり前だった。
「今出るからそっちで待ってて」

 跡部は少し疲労を感じつつも、珍しい展開に言われた通りベッドに腰を掛けて待つ事にする。世界を股に掛けるキングも最愛の恋人には形無しだった。
 だが想像以上に早くバスルームのドアは開いた。
「お待たせ……」
 少し恥ずかしそうに幸村がバスルームから出て来る。
 跡部が驚いたのはその幸村の格好で、全裸に可愛い羊のフェイスフード付きもこもこケープだけを羽織っている。フードの、ポンポンが先についたドローストリングを襟元でリボンに結んではいるが、ボタンのないケープなので前合わせは片手で押さえて、かろうじて上半身を隠してはいる。だが下半身は、ケープの丈が腰の辺りまでしかなく、そのままだと股間もぷりっとしたお尻も丸出しだった。もう片方の手で股間を隠し、そのポーズは本人が意図せずそのままヴィーナス誕生になっていた。
「おまえ……それは」

 大食いバトルに参加していない跡部は、大会中は終始ヘリコプターに乗っていたので、幸村が他国選手の食欲を奪い、惑わす為に自ら羊飼いになっていたのを知らなかった。もちろんその時はいつものジャージの上着のように、ウェアの上にケープを羽織っていたが。
「さっき着たやつなんだけど、なんかやたら評判良かったからさ」
 あまりの可愛さに跡部は言葉も出ず、ごくりと生唾を飲み込む。
「なあ、何か言うことないのか?」
 幸村は出落ちすら失敗したか? と思った途端、コスプレめいた格好に羞恥を感じてすぐになかったことにしたくなった。
「あーん?」
「反応薄いからさ。可愛いのはあんまり好みじゃなかった?」

 確かに跡部の好みは「勝気な人」で、その言葉から得られるイメージと「可愛さ」は少し違うかもしれない。それでも日頃からよく「可愛いぜ」と言われていたから幸村は跡部も喜んでくれるかな、と期待していた。
 期待はずれの反応にしょんぼりしてその場で脱ぐのも恥ずかしく、バスルームに戻ってバスローブに着替えてこようと後ろを向く。

 するとベッドから立ち上がった跡部が幸村の腕を掴んで止めた。
「そのままでいい」
 言いながらグイッと跡部は幸村を振り向きざまに引き寄せ、自分の身体で包むと耳元で囁いた。
「可愛いぜ。食っちまいたいくらいに」

 トップレベルのアスリートとは思えない白い肌に、真っ白なもこもこファブリックが似合い過ぎている。
 その上何もなくても男なのに美しいとか、可愛いと思わざるを得ない中性的に整った顔の上にもう一つキュートな羊のもこもこフェイスが乗っているのだから、好み云々に関係なく動物好きな跡部が気に入らないわけがない。
 今は跡部とぴったりくっついているからお互いの顔が見えず、幸村は思いっきり不安を露にして、ふぅっと息を吐いた。
「ほんとに? 無理してないか?」
「ああ、あまりの可愛さに言葉が出なかっただけだぜ」
 ギュッと抱き締める跡部の腕は、いつの間にかケープから丸出しになっている幸村の尻にまで移動し、がしっと掴んでいた。
「あんっ」
「丸出しじゃねーの」

 跡部はひょいっと幸村を抱きかかえると、そのままベッドにぼんっとやや乱暴に落とした。男なのでこれくらい扱いが雑でも問題はない。
「フフ、誘惑は成功かな」
「あーん? 別にもこもこがなくたってもいつでも誘惑されてんだろ」
 跡部も気に入ったとわかり、幸村はもう満足した。
 そもそも十二月でも暖かいオーストラリアの、空調がほどよく効いたスイートで全裸とはいえ、もこもこのフードのままHをすると思うと暑くなるのが予想できた。
 よかった、と満足気な顔で襟元のリボンをほどき、ケープを脱ごうとする。
「おっと、そのままだ」
「え?」
「なんだよ、そのつもりで着たんだろ? 可愛い羊さんに種付けしてやるぜ」
「仔羊ができちゃうかも」
「何頭産んだって全部まとめて育ててやるから気にすんな」
「でも仔羊におっぱい吸わせたら跡部が吸うおっぱいなくなっちゃうよ」
「ああん? そいつは問題だな」
 フフフと幸村は笑いながら四つん這いになって跡部にケープから丸出しになっている尻を向けた。
「尻尾もつければよかったかな」
 さすがに大会中にそこまでするのはあざとすぎるという自覚はあった。それにハーフパンツの上からはどう尻尾をつけていいのかわからない。でも裸の尻なら……。
「いや、尻尾はいらねぇよ。第一俺様が突っ込んでやるから入れてる隙なんてねぇ」
 言いながら跡部はもう幸村の後ろがすっかり準備万端になっているのを、指をそろっと入れて確かめた。
「大丈夫、すぐ来ていいよ」
「ああ、いくぜ」
 いつの間にか手早い仕草でゴムをつけた跡部の太くて長いペニスがぐいっと押し込まれる。
「はぁ……」
「くっ、いつもより締め付けがキツイんじゃねーの」
「あ、ちがっ、跡部のが、いつもよりおっきぃ、ん」
 そのままパンパンと跡部は腰を打ち付け、幸村もそれに合わせるように腰を揺らしながらまさに動物のような交尾を始める。
「あっあっっ」
 ケープの隙間から跡部は片手を伸ばし、幸村の尖った乳首をキュッと摘まんだ。
 するとそれがすべてを繋ぐスイッチのように、ぞくぞくと快感が体内を伝わりきゅんっと跡部の抜き差しされるペニスを逃がすまいと締め付ける。
 気が付けば跡部の額にはうっすらと汗が滲んでいる。肌に触れるもこもこのファブリックの感触がやはり暑いらしい。それを身にまとっている幸村も当然、いつも以上に汗をかいている。
 内心、ちょっと暑過ぎるからさっさとイッてしまいたい……と冷静になってしまうくらいに。
 幸村は自分のペニスを握ると、その暑さの中でしごき出した。
「あっ、イキそう……」
 それを受けて跡部も腰のストロークを速めて、追い上げる。
「おいっ、イクときはわかってんだろうな」
「う、うん……、あああ、め、メェーーーー」
 跡部も同時にゴムの中に射精すると、まだ搾り取られるような動きにくっと堪えながら、ずるりとペニスを抜いた。
 そして、よくできました、と言わんばかりに自分の下で脱力し、腹ばいに寝ている幸村の顔を上から覗いて、その頬にキスをした。


「ところで……。その羊の服はどこで手に入れたんだ? しかも俺様に黙っていつの間によぉ」
「君様だよ。担当のスタイリストさんが用意してくれたんだって。そうそう、可愛い本物の仔羊もいたんだよ! それも君様がこっちの動物プロダクションに頼んでた。だってキミ、一緒に戦う仲間じゃなかっただろ。だから作戦は秘密にしておかなきゃ」
 知ってたら絶対止めていたぜ。
 その作戦の効果があったのかどうかなんて聞くまでもない。
「それ借り物って言ったな」
「そうだよ、後で返さなきゃ……でもどうしよう……」
 今はもう脱いでいるが、汗や他の染みでべとべとだった。
「いや、いくらでもいいから買い取れ」
 幸村は跡部に使用額上限なし、戦車も買える跡部グループのダイヤモンド・ミラクル・キングカードを持たされている。
 跡部は次はシェイクスピアの冬物語の王子と羊飼いに育てられた王女のプレイをしようと目論んだ……。




(2022.3.4/Golden age354&プレ生誕祭)

タイトルとURLをコピーしました
inserted by FC2 system