「徳川さん……今日もお願いできますか?」 少し前、毎日のプライベート・レッスンで同じ台詞を吐いていた。それなのに幸村はドアを開けた徳川に言う。 あらかじめ、同室の入江には話をつけているらしく部屋には徳川だけだ。 まったく同じ台詞なのにコートでの響きよりも、心もとなさを感じる。いや、すでに幸村の息が上がっているせいかもしれない。 「もちろんだよ。おいで」 メルボルンの宿泊棟の広いベッドの上で幸村は、徳川に抱えられるように背中を預けている。上半身はジャージを羽織ったままだが下半身は何も履いていない。 「お、俺、おかしいですか? 毎晩こんな……」 「おかしくなんかないよ。この時期の男なら皆同じようなものだ」 「で、でも自分でできないなんて……俺、だっけッ……」 その言葉を封印させるかのようによりいっそう早い、くちゅくちゅと湿った音が部屋中に響く。 「あっ、アアッ、そこ――っ」 「ここの先端が感じやすいのも」 「んんっ」 「あと、この裏筋が感じやすいのも、皆同じだよ」 徳川が説明しながらその場所を大きな手で包みこんで、優しく撫でる。 「はぁ……ッ」 「でもここは……」 長い指がすーっと、幸村の裏筋から敏感になった柔らかな縁取りまでを確かめるようにすべっていく。ひと際大きく幸村の身体がビクンと撥ねた。 「ここも触って欲しいのかい?」 あくまで冷静に、ただでさえ腰に響く美声が耳元に注がれると、身体の中に直接響いた。切なさと恥ずかしさなどで感情も、身体同様ぐちゃぐちゃになってしまう。 「は、っい、そこっもっ」 「ここも感じるんだね。最初から……なのは確かに君だけの才能かもしれない」 徳川の腕の中で身悶えしていると、少なからず身体を摺り寄せてしまう。そのせいか、それともその前からなのか幸村の尻の割れ目に突き刺さるようなゴリゴリっとした硬さを感じる。 ――あっ……。徳川さんも――。 だが身体の熱さをまるで感じさせないように、徳川はあくまでも冷静だった。 「こんなこと一人ではなかなかできないだろう?」 左手で幸村の硬くなった先端をむき出しにしながら優しく上下に揺らし、もう片方の指はその奥にあるすぼまりをこじあけている。 「アアッ」 徳川の指が内側にあるしこりに触れた。それがスイッチとなり身体中に電気が走る。ひと際のけ反ってしまう。 「ここを少し触っただけでもうこっちもぱんぱんになってる」 「そんっな、されたら、もっ、でちゃ――いますっ!」 無我夢中で徳川の手の上に自分の指を絡めていた。あまりの快感に痛いくらいでその手をどけて欲しくもあり、そのままもっと強くしごいて欲しくもある。 「我慢しなくていい」 根本から絞り上げるように大きな手がすべり、先端をぐりりっと刺激した。 「ああっ、とくがわっさん――!!」 ぴゅるっと吐き出されたみずみずしい白濁は徳川の手に受け止められた。 「いっぱい……でたね」 こうして射精した後、放心状態のままくったりと徳川に背中を預けていると、徳川が用意していたティッシュやタオルで幸村の股間を綺麗に拭いてくれる。 「ありがとうございます……」 「まだ、動かなくていいよ。好きなだけそうしているといい」 「でも」 「大丈夫、まだしばらく戻ってこない」 「あの、俺が一人でその……処理できないからってこんなに毎晩ご迷惑では?」 幸村が自慰をしたことがない、と相談して以来、徳川は「できないなら無理してしなくていい。俺がやってやろう」と幸村の性欲処理を手伝っていた。 やり方を教えるのでもなく、幸村の代わりに徳川が文字通り手を貸している。 「いい加減、俺も一人でできるようにならないと……」 「いつかはね。でも俺が側にいる間は俺を頼ればいい」 「俺、その言葉に甘えちゃってます」 「それでかまわない」 「あの、でも徳川さん……は?」 尻で感じていた硬く熱い感触。ちらりと徳川のジャージの股間を確認するとまだそこは普段よりも盛り上がっているように見えた。 「俺はいいんだ。一人でできるから」 「そ、そうですよね……」 しょんぼりとする幸村を見ると徳川は、ピュアすぎて誰かに騙されないかと不安になる。そもそも一人でできないなんて聞いたことがない。もしそれが本当だとしても一度やり方がわかれば一人でできないなんてことはない。 だが徳川には好都合だからと、多少の違和感に気づかないふりをする。 ――俺がいないとダメになればいい。 そして幸村は――。 ――その硬いのを早くぶち込んでって、今更言いにくいや。