最高のプレゼント

 男は大抵ロマンチスト……とはいえ幸村の恋人はとびきりのロマンチストだった。
 アニバーサリーやイベントをかかさない彼、忍足が一年で幸村の誕生日と同じ位はりきるのがクリスマスだ。
 街を彩るイルミネーションの中、寒さで自然と恋人たちがくっつく季節。
 普段は気だるげでクールな眼鏡男子を装っているが、その中身は女子高生よりもある意味恋愛脳と言えるかもしれない。

 まだ学生の二人はお互いの部屋を持ってはいるが、ほとんど幸村が忍足の部屋に半同棲している状態だった。
 忍足は十二月にカレンダーが変わると、すぐに家の中をクリスマス仕様にし始めていた。
 忍足に「大げさなことはしないで」というのは、息をするなというようなもので幸村にはとても言えない。
 それに毎年、二人で自分たちの身長より大きなツリーの飾りつけをするのも、楽しかった。

 二十四日の朝、ツリーの足元には大きなプレゼントボックスが二つ、置かれていた。もちろんサンタ役は忍足だ。
「一緒にあけよか」
 LEDのイミテーション暖炉が燃えているマントルピースの前で、忍足は幸村を膝の上に座らせて大きな包みを豪快に開ける。
「え? アイススケート・シューズ?!」
 お揃いだった。
「そや、明日はマイ・シューズで滑りに行くで」
「俺、滑ったことないよ!」
 忍足にはそれも調査済みだった。期待通りの反応に喜びが隠せない。

 忍足が幸村を連れて行ったのは、都内にあるクリスマス仕様の野外スケートリンクだった。ニューヨークの有名なロックフェラーセンター、とまではいかないが、イルミネーションや隣接したカフェなどSNSを意識した、ロマンチックでいかにもデートスポットとして賑わっている。
 あちこちでよろよろした恋人をエスコートする光景が見られる。
 そう、忍足がやりたかったのはこれだった。
 ところが──。
 さすが神の子、幸村の運動神経は伊達じゃなかった。
「見て見て! あは! 結構いけるかも!」
 あっという間に忍足の目の前をスーッとスムーズに滑っていった。
 ──なんや。あかんやろ。想像以上に上手すぎるで。
 実は忍足は幸村に隠れて一人で自主練までしていた。幸村の両手を持って一緒に滑ったり、転びそうな幸村を抱えて助けたり……というロマコメの王道展開デートをするために。
 すると忍足のテンションが若干下がったのが幸村に伝わったらしい。
「わーーー、ゆーしぃー止まらないよー」
 それが演技だとしても忍足はおっしゃ! と張り切って幸村の前に飛び出して両手を広げて抱きとめる。
「やっぱり怖いから一緒に滑ろ」
「せやろ? 手ぇ離さんとこな」
 そんな二人はスケート場の注目の的だった。
 ただ、大の男が手を繋いで滑っているからではない。
 二人は、幸村からのクリスマスプレゼントの、お揃いのニット帽、マフラー、セーターを着ていた。赤いハートだらけのちょっと恥ずかしいやつ。でも美人で足も綺麗で、勘のよい恋人が選んでくれたというだけで忍足にとってはどんなに恥ずかしくてもペアルックならば、最高のプレゼントだった。
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